「これくらいできて当たり前」の罠から抜け出す思考法:心が疲れている時の考え方のヒント

仕事

何かを達成した、ほんの小さなことでも何かをやり遂げた。そんな時、素直に「できた」と感じる代わりに、「こんなこと、できて当たり前だ」「誰にでもできることだ」「だから自分はすごくない」…そんな風に、自分の行動や結果を打ち消してしまうような考えにとらわれてしまうことはありませんか?
筆者自身も資格で合格したとしても、周りのエンジニアと比較するとすごくないんだ…と感じることが多々あります。

特に、気分が落ち込んでいる時や、自信をなくしている時には、こうした思考の癖が現れやすくなります。例えば、今日はメールを1通返信できた。これは、忙しい日々の中や、あるいは気分が乗らない中で、腰を上げて取り組んだ大切な「できたこと」かもしれません。

しかし、心が疲れていると、その「事実」をありのままに受け止めることが難しくなりがちです。今回は、こうした思考の癖の背景にある心の仕組みと、少しでも楽になるための考え方のヒントについてお話ししたいと思います。

小さな「できた」を打ち消してしまう思考の癖

私たちの心は、時に不思議な働きをします。例えば、「今日はメールを1通返信できた」という客観的な事実があったとします。億劫な気持ちを乗り越えてタスクを一つ進めた、これは紛れもない前進です。

しかし、自己肯定感が低下している状態だと、心の中で無意識に「謎の比較」が始まってしまうことがあります。「メールを1通返すなんて、仕事をしている人なら誰でもやっていることだ」といった考えです。この比較自体、多くの場合、客観的な根拠があるわけではありません。

そして、この比較の結果、「誰でもできること」=「特別なことではない」という結論に至り、最終的には「だから、メールを1通返信できた事実があったとしても、私自身は仕事ができるわけではないし、評価に値しない」という歪んだ自己評価にすり替わってしまうのです。

本来は単なる「メールを1通返信した」という事実が、なぜか「自分はダメだ/大したことない」という評価に変わってしまう。これは、心が「バグ」を起こしているような状態とも言えます。起きた出来事を、ありのままに受け止めるのではなく、ネガティブなフィルターを通して解釈し、自分自身を不当に低く評価してしまうのです。

なぜ「事実」が「ネガティブな評価」に変わるのか?

このような思考の歪みが生まれる背景には、様々な要因が考えられます。

  • 低い自己肯定感: もともと自分に自信が持てない、自分の価値を低く見積もってしまう傾向があると、どんな出来事もネガティブな自己評価に結びつきやすくなります。
  • 完璧主義: 「これくらいできて当然」「もっと効率よくできたはず」という完璧主義的な思考が、小さな達成を認められなくさせます。
  • 心身の疲労・不調: うつ状態や強いストレス下では、物事を悲観的に捉えやすくなる認知の偏りが生じることが知られています。思考の柔軟性が失われ、ネガティブな考えが堂々巡りしやすくなります。
  • 他者との比較: 無意識のうちに、他人(特にスムーズに仕事を進めているように見える人や、理想化された「できる人」のイメージ)と比較し、「それに比べて自分は…」と考えてしまうこともあります。

大切なのは、こうした思考パターンは、客観的な事実に基づいたものではなく、あくまで心の中で生み出された解釈や評価である、と認識することです。

「ありのままの事実」を受け止める練習

では、どうすればこの思考の癖から少し距離を置けるでしょうか。それは、「事実」と「評価(解釈)」を意識的に切り分ける練習をすることです。

心が元気な状態であれば、多くの人は「今日、私はメールを1通返信できた」という事実を、そのまま「私はメールを1通返信できた」という自己認識に繋げます。そこに「誰でもできる」「だからダメだ」といった余計な比較や評価は介在しません。

まずは、どんなに小さなことでも、「できたこと」や「起きたこと」を、評価や比較を加えずに、事実としてそのまま認識することを意識してみましょう。

「今日は、企画書を1ページだけ進められた」 「今日は、5分だけタスク整理の時間が取れた」 「今日は、定時に退社できた」

これらはすべて、比較や評価を抜きにした「事実」です。そして、その事実をそのまま受け止めることが、「ありのままの自分」を認識する第一歩となります。

「事実認識」がもたらす心の変化

この「事実を事実として認識する」練習は、すぐに劇的な変化をもたらすものではないかもしれません。しかし、続けていくことで、少しずつ心に良い影響を与えてくれます。

  • ネガティブな自己評価の連鎖を断ち切る: 事実を評価にすり替える癖を意識することで、自動的に自分を責めてしまう思考のループから抜け出しやすくなります。
  • 小さな前進のステップを認識できる: 仕事が進まないと感じる時も、本当に小さな一歩が大切です。その小さな「できた」という事実を認識することは、停滞感を打ち破るきっかけになります。
  • より客観的な自己像へ: 歪んだ評価ではなく、日々の事実を積み重ねることで、より現実に基づいた、バランスの取れた自己認識に繋がっていきます。
  • 無力感の軽減: 「何も進んでいない」という無力感にとらわれている時も、「メールは1通返せた」「〇〇はできた」という事実を認識することで、少しだけ状況を客観視できるようになります。

今日からできる、小さな一歩

もし、あなたが「自分はいつも事実をネガティブな評価に変えてしまう」と感じているなら、以下のことを少しだけ意識してみてください。

  • 事実と評価(感情・思考)を分けてみる: 何かをした後、「〇〇をした(事実)。それに対して、~と感じた/~と考えてしまった(評価・感情)」のように、心の中で分けてみる練習をします。
  • 「できたこと」を小さく記録する: 大きな目標でなくて構いません。その日にできた些細なこと(メール返信、資料整理、短い打ち合わせなど)をメモに残してみるのも良いでしょう。評価は不要です。
  • 比較する声に気づく: 「でも、他の人はもっと…」「こんなの普通は…」という声が心の中に聞こえてきたら、「あ、また比較してるな」と気づくだけでも大きな進歩です。そして、そっと「でも、事実は〇〇ができたんだった」と思い出してみましょう。
  • 休息を大切にする: 心や体が疲れていると、どうしてもネガティブな思考に陥りやすくなります。回復には、十分な休養と時間が必要です。焦らず、自分を労わることを忘れないでください。時には専門家の助けを借りることも大切です。

最後に

気分が落ち込んでいる時、自信を失っている時、私たちは無意識のうちに、起きた出来事をネガティブに解釈し、自分自身を過小評価してしまうことがあります。しかし、それは必ずしも客観的な事実ではありません。

「メールを1通返信できた」というような小さな事実を、そのまま「できた」と受け止める練習は、すぐに完璧にできなくても大丈夫です。何度も繰り返すうちに、少しずつ思考の癖が変わり、心が軽くなる瞬間があるかもしれません。

何よりも大切なのは、自分自身に対して優しくあることです。焦らず、ご自身のペースで、小さな「できた」という事実を大切にしてみてください。

最後までお読みいただき、ありがとうございました。

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