
私たちが毎日使っているインターネット、オフィスや自宅のWi-Fi。これらのネットワークは、たくさんの機器が複雑に連携して成り立っています。「どうやってスマホから世界中のウェブサイトが見られるの?」「会社のパソコンから他の部署のサーバーにどう繋がっているの?」そんな疑問を持ったことはありませんか?
ネットワークの仕組みは、一見すると非常に複雑ですが、「階層」に分けて考えると理解しやすくなります。コンピューターネットワークの世界では、通信の機能を役割ごとにいくつかの層(レイヤー)に分ける考え方(OSI参照モデルやTCP/IPモデルなど)が基本となっています。
今回は、その中でも特に基本的で重要な、下位の3つの階層(物理層、データリンク層、ネットワーク層)に焦点を当て、データがどのように繋がり、届けられるのか、その仕組みの基礎を分かりやすく解説していきます。
レイヤー1:物理層
ネットワーク通信の最も基本的な土台となるのが物理層(レイヤー1)です。この層の役割は、データを「0」と「1」のビット列(電気信号や光の点滅、電波など)に変換し、物理的な伝送媒体を通して実際にデータを送り届けることです。
- 主な役割:
- データを物理的な信号に変換する、または信号をデータに復元する。
- 物理的な接続(コネクタの形状、ケーブルの種類、ピンの配置など)の仕様を定める。
- 関わるもの:
- 伝送媒体: イーサネットケーブル(LANケーブル)、光ファイバーケーブル、無線LANの電波など。
- ネットワーク機器: ネットワークインターフェースカード(NIC、パソコンやサーバーのLANポート)、ハブ(現在はあまり使われない)、リピーター(信号増幅器)、無線LANアクセスポイント(電波を送受信する部分)、スイッチやルーターの物理的なポート(差し込み口)など。
- 身近な技術: イーサネットケーブルを通じてデータだけでなく電力も供給できるPoE (Power over Ethernet) という技術も、物理層に関わる技術です。これにより、電源コンセントがない場所にも無線LANアクセスポイントやネットワークカメラなどを設置しやすくなります。
物理層は、データの内容には関知せず、ひたすらビット列を物理的な媒体に乗せて相手に届ける、あるいは受け取ることに専念します。まさに、ネットワークの「道」そのものを作る層と言えるでしょう。
レイヤー2:データリンク層
物理層で繋がった機器同士が、同じネットワーク範囲内(例えば、家庭内LANや、オフィスの同じ部署内など)で、お互いを識別し、データを確実に送受信するルールを定めているのがデータリンク層(レイヤー2)です。
- 主な役割:
- 物理層で発生しうる伝送エラーの検出・訂正(一部)。
- 同じネットワーク内の機器を識別するためのアドレス(MACアドレス)を使って、データを適切な相手に届ける。
- ネットワーク媒体へのアクセスを制御する。
- 重要な概念:
- MACアドレス: ネットワーク機器のインターフェース(LANポートやWi-Fiアダプタ)に固有に割り当てられた物理的な識別番号です。世界中で重複しないように管理されており、「住所」に例えるなら「番地」のような、非常にローカルな範囲での宛先指定に使われます。
- スイッチ (L2スイッチ): データリンク層で動作する主要なネットワーク機器です。接続された機器のMACアドレスを学習し、データ(フレーム)の宛先MACアドレスを見て、関係するポートにだけデータを転送します。これにより、不要なデータの衝突を防ぎ、効率的な通信を実現します。
- VLAN (Virtual LAN): 物理的には一つのネットワークスイッチに接続されていても、論理的に複数のネットワークに分割する技術です。例えば、オフィスで「部署A用ネットワーク」「部署B用ネットワーク」「来客用ネットワーク」を、同じスイッチを使って分離することができます。これにより、セキュリティの向上やネットワーク管理の効率化が図れます。
- スイッチポートの種類 (VLAN関連):
- アクセスポート: 通常、パソコンなどのエンドデバイスを接続するためのポートです。特定の単一VLANに所属し、そのVLANの通信だけを通します。
- トランクポート: スイッチ同士や、スイッチとルーター、スイッチと高機能な無線LANアクセスポイントなどを接続するためのポートです。複数のVLANの通信を同時に通すことができ、各VLANの通信を識別するための「タグ」が付加されるのが一般的です(例: 802.1q)。
- 無線LAN: 無線LANアクセスポイントも、接続するデバイスをMACアドレスで管理し、データを無線で中継する点で、データリンク層の役割を担っています。VLANに対応したアクセスポイントは、トランクポート接続によって複数のVLANの電波を飛ばすこともできます。
データリンク層は、同じ建物内や同じ部署内といった、比較的小さな範囲での正確なデータ配達を担当する層です。
レイヤー3:ネットワーク層
データリンク層が「同じ町内」での配達を担当するなら、ネットワーク層(レイヤー3)は、「異なる町や都市へ」ネットワークを越えてデータを届けるための経路選択(ルーティング)を担当します。インターネット全体を繋ぐ重要な役割です。
- 主な役割:
- ネットワーク全体で一意な論理的なアドレス(IPアドレス)を使って、データの送信元と宛先を識別する。
- 複数のネットワークを経由して、宛先までデータを届けるための最適な経路を選択し、データを転送する(ルーティング)。
- 重要な概念:
- IPアドレス: ネットワーク上の機器を識別するための論理的なアドレスです。MACアドレスが「機器固有の番号」であるのに対し、IPアドレスは「ネットワーク上の住所」のようなもので、所属するネットワークによって変わります。インターネットで通信するには、グローバルIPアドレスが必要です。
- サブネット: 大きなIPネットワークを、管理しやすいように小さなネットワーク(セグメント)に分割したものです。通常、オフィスなどでは部署ごとやVLANごとに異なるサブネットが割り当てられます(例: 部署Aは
192.168.10.0/24
、部署Bは192.168.20.0/24
)。 - ルーター (L3ルーター): ネットワーク層で動作する主要な機器で、異なるネットワーク(サブネットやVLAN)同士を接続し、データの経路選択を行います。ルーターは受け取ったデータの宛先IPアドレスを見て、次にどのネットワーク機器に転送すれば宛先に到達できるかを判断します。私たちがインターネットを利用できるのは、世界中のルーターが連携してデータを中継してくれているからです。
- VLANとサブネットの関係: 一般的に、データリンク層で作成された一つのVLANには、ネットワーク層で一つのサブネットが対応付けられます。ルーターは、これら異なるVLAN/サブネット間の通信を中継する役割を担います。
- スイッチポートとサブネット: データリンク層のアクセスポートは、通常、特定のVLANに属すると同時に、対応する特定のサブネットへの接続を提供します。トランクポートは複数のVLANの通信を通すため、結果的に複数のサブネットの通信を伝送することになります。
- 無線LANとIPアドレス: Wi-Fiネットワークに接続すると、通常、ルーター(のDHCP機能)からそのネットワーク(サブネット)に対応したIPアドレスが割り当てられ、他のネットワークやインターネットとの通信が可能になります。
ネットワーク層は、データが目的地にたどり着くための「地図とナビゲーション」の役割を果たしています。
まとめ:各レイヤーの連携
ネットワーク通信は、これら3つの階層(実際にはさらに上位の層もありますが)が連携することで成り立っています。
- 物理層 (L1): ケーブルや電波でデバイス同士を物理的に「繋ぐ」。
- データリンク層 (L2): 同じネットワーク内でMACアドレスを使い、隣接する機器へ正確にデータを「渡す」。VLANでネットワークを論理的に分割する。
- ネットワーク層 (L3): 異なるネットワーク間でIPアドレスを使い、最適な経路を選んでデータを「届ける」。ルーターがネットワーク間の交通整理を行う。
これらの基本的な階層の役割を理解することで、ネットワークのトラブルシューティングや、より複雑なネットワーク構成を学ぶ上での基礎となります。普段何気なく使っているネットワークの裏側にある仕組みに、少し興味を持っていただけたら幸いです。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
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